「窒素富化空気による火災の消火方法及びシステム」
【コンセプト】
気体分離膜を利用して火災現場で生産される窒素富化空気を非開放の火災空間に大量に注入することにより、火災空間の雰囲気を適切な酸素濃度を持つ雰囲気に置換して火災の抑制または消火をはかる。
このコンセプトは、密閉または半密閉空間(以下は非開放空間という)における火災の消火方法およびそのシステムに関する。詳述すれば、消防隊に配備され、さまざまな場所の非開放空間に発生した火災に機動的に対応でき、非開放空間で火災が発生する場合、迅速に火災を抑制でき、かつ空間内にいる人員の生存に悪い影響を与えず、消防や救急人員が火災の発生空間に迅速に進入できるような環境を提供することによって、より早く救急活動が行われ、よりはやく、より少量な消火剤で消火できる消火方法とシステムを提供する。
このシステムが特に、超高層ビル、地下街、トンネル、デパート、ホテル、オフィスビルのような奥行きが深く、または雑居ビルのような内部に迷路状になり障害物が多く、外部からの放水が内部の火元に届けにくい建築物、およびハイテク倉庫、重要機材の保管倉庫、文化財または貴重なデータの保管室、機械室などのような付加価値が高い場所に適用する。
現代の建築物には、大規模化と高層・地下化が進んでおり、また、利便性を追求するため、住宅、ショッピングセンター、飲食店などを同じ建築物に集中する傾向がある。そのため、火災発生の危険性が高まり、また、建築物のワンフロアの床面積が大きくなり、内部の構造が複雑になっているため、一旦火災が発生したら、トンネル火災と同様に、消火のための外部からの放水が奥まで届けにくく、高温や煙のため火災が収まるまで救急や消防の人員が進入できない。このような人がつねに出入している非開放空間に対する火災の消火は、言うまでもなく非常に重要であるが、従来の方法ではまだ万全ではない。死者が多く出たトンネル、ホテル、雑居ビルや超高層ビルの火災、および倉庫の大規模火災がしばしば発生し、鎮火するまで長時間を費やしたことはその証拠である。
人がつねに出入している非開放空間に使用される消火方法は、主に水を使用する方法である。すなわち、初期消火はその場所に設置された散水スプリンクラーにより自動的に行い、その以上の火災は消防隊の消火活動に頼る。消防隊が一般火災を消火する主な装備はやはり水を使う放水車である。
初期消火を目的とする散水スプリンクラーのような消火システムは多くの配管が必要であり、その設置は建物の設計段階から計画に入れなければ難しい。つまり、建物が完成した後の設置が困難である。また、初期費用がかかるため、設置されていない建築物が多くある。
散水スプリンクラーが設置されている場所でも、可燃物の種類、置き方、または空調、内装などの影響により、作動が遅れて、あるいは散水しても鎮火できないケースがある。
さらに、地震やテロなどの被害によって水が充分に供給できないケースもある。
以上のような初期消火が実行できない、または失敗した場合、非開放構造のため、短時間で上昇した温度と充満した煙は外部からの消防や救急人員の進入を妨げる。そのとき、外部からの放水が奥にある燃焼物に届けにくいため、消火活動は効率的に行うことができなく、火災空間に閉じ込められた人員の早期救出も困難である。以下に示した最近の火災事例も従来の消火方法及びそのシステムの限界を示唆する。
2000年11月11日オーストリアのカプルーンに発生したケーブルカー火災は消防隊が到着した後も3時間以上燃えつづけ、死者155名を出した大惨事となった。
死者44名を出した2001年9月1日の新宿雑居ビル火災のとき、火災の覚知から鎮圧まで約4時間半がかかった。死者のほとんどは煙、すなわち一酸化炭素による中毒死と言われる。
また、2001年9月11日に世界貿易センタービルがテロの攻撃を受けて倒壊した原因は1時間以上に継続した火災にあると見られる。
そのため、迅速に火災を抑制でき、かつ空間内にいる人員の生存に悪い影響を与えず、消防や救急人員が火災空間に迅速に進入できるような環境を提供することによって、より早く救急活動が行われ、より早く、より少量な消火剤で消火できる消火方法及びシステムが要求される。
二酸化炭素以外の不活性ガスによる希釈消火方法は地球にも人の心身にも有害な影響を与えないので注目されている。
米国特許第3,893,514号は、窒素を加圧して、可住大気を含む密閉空間に加え、火災が抑制される環境内で、人に心身に有害な影響を少しも与えないで火災を抑制するシステムと方法を開示していた。
また、日本公開特許公報の昭64-58272号は、数パーセントの炭酸ガスを含む不活性ガスを使用して、危急に際し、効率のよい人員活動に適切な環境を保持しながら設備に損害を与えない火災の抑制と消火の方法を開示していた。
そのほかに、日本公開特許公報の特開平10-263109と特開平11-226343号は、火災の時、火災空間の空気を吸引して圧縮し、酸素透過膜または酸素吸着性の液体により酸素を除去してから火災空間に戻し、酸素濃度を徐々に低下させる消火方法および消火装置を開示していた。
しがしながら、上述の希釈消火方法は、いずれも100%濃度の不活性ガスを放出することを特徴とし、密閉空間を対象とする固定消火システムを持つ方法である。そのため、それらは以下のような欠点がある。第1、設置費用が高いため、付加価値が高い場所しか設置されていない。第2、貯蔵容器より供給される不活性ガスの量が決まっており、長時間わたって継続的に供給できないので、開口部のある空間には使えない。第3、火災による発生した煙や有毒ガスが外部に排出せず空間内に留まる。
また、上述の火災空間の酸素を酸素透過膜または酸素吸着性の液体で除去する消火方法は、希釈消火方法と同様に、開口部のある空間には適用できないほかに、希釈消火設備に同等の消火性能を持たせるには、大がかりの設備が必要とし、設置費用が希釈消火設備より高くなる。さらに、有機高分子材料からなる酸素透過膜は火災で発生した高温ガスおよび固形の粒子に弱いため、実用するには難しい。
本コンセプトは、さまざまな場所の非開放空間に発生した火災に機動的に対応でき、非開放空間に火災が発生するとき、迅速に火災を抑制でき、かつ空間内にいる人員の生存に悪い影響を与えず、消防や救急人員が火災空間に迅速に進入できるような雰囲気環境を提供することによって、より早く救急が行われ、より少量な消火剤で消火できる消火方法及びシステムを提供することを目的とする。
新しい消火システムは気体分離膜を利用して消火作業の現場で大気中から窒素富化空気を生産する手段と、流量と酸素濃度を制御する手段と、火災空間への窒素富化空気の注入および流れ制御手段と、装置の移動手段と、火災状況の監視手段から構成される。
火災が発生するとき、消火しようとする火災現場に移動手段により消火システムを迅速に運び、火災の種類及び人員の有無に応じて酸素濃度を調整した窒素富化空気を生産し、火災空間の規模に応じて必要な流量の窒素富化空気を火災空間に継続的に送り込む。それによって煙や有毒ガスを含む火災空間の既存の空気を排除し、燃焼を抑制し、視界を確保し、人員の生存と燃焼の抑制が両立できる雰囲気環境を実現する。
従来の水を利用するポンプ消防車に比べ、上述のシステムが以下の利点がある。
1、迅速に火災を抑制する同時に、火災空間に閉じ込められた人員に生存できる環境を提供する。
2、迅速に火災空間内部に避難区域を作ることができる。
3、煙の排出と温度の低下により消防や救急人員が火災空間に迅速に進入できるため、早期の救急活動が実施できる。
3.可燃物の種類や火災空間の構造によって本方法及びシステムだけで火災を消火することもありうる。
4、また、残火が残っても、燃焼が抑制されているため、消防人員が燃焼物に近づくことができる。したがって、より早く、より少量の水や消火剤で消火することができ、火災と水損の両方の被害が軽減できる。
5、消火に使う窒素富化空気は現場の大気から生産するため、地震やテロなどの被害によって水が充分に供給できない場合でも、消火活動ができる。
6、超高層ビルの場合でも、タクトまたは配管やエレベータなどの設置スペースを利用して火災発生の層まで窒素富化空気を迅速に送り込み、火災を抑制することができる。
7、迅速に移動でき、様々な場所の火災に機動的に対応できる。
8、消防隊員の危険と労働強度を軽減できる。
周知のように、大気中の酸素濃度は通常21%であるが、酸素濃度12%位まで下がっても人間に対して短時間ではそれほどの影響がない(富士山の頂上の酸素分圧を平地に換算すると13%となる)。ところが、酸素濃度が12%位になると、ほとんどの物が燃えなくなる。このように、火災空間の酸素濃度を窒素富化空気の注入により人間にとって生存上に支障のない濃度までに低下させ、それによって、人間の活動できる環境を維持する同時に、消火または燃焼を抑制する効果が得られる。
| 人間及び燃焼に対する酸素濃度低下の影響 | ||||
| マッチ、ライターがつかなくなる | ||||
| 脈拍、呼吸数増加、精神集中に努力必要、細かい筋肉作業がうまくいかない、頭痛 | ||||
| 芳香族系燃料のtolueneおよび絶縁油の火炎が消える | 影響は現れない | |||
| 軽油と芳香族系燃料のbenzeneおよび炭化水素系燃料のn-heptane,n-octane, n-decane, n-undecane,n-dodecaneなどの火炎が消える | 脈拍が1分間に10位増すだけ | |||
| アルコール系のethanol火炎が消える | 呼吸が深くなる | |||
| アルコール系のmethanol火炎が消える | 判断力の低下、精神不安定、体温上昇、チアノーゼ | |||
| 短時間のうちに意識不明、痙攣、チアノーゼ | ||||
| ほとんど瞬間的に呼吸停止、6-8分で心臓停止 | ||||
| 1)消防研究所カップバーナーデータにより(小数点以下は四捨五入) | ||||
| 2)藤田、佐武、生理学講義 | ||||
| 3)関邦博等、人間の許容限界ハンドブック、朝倉書店(1998) | ||||
気体分離膜を利用して窒素富化空気を生産する場合、提供する窒素の純度により供給量が変わる。窒素濃度の高いものを生産するとき流量が非常に少ないが、窒素濃度90%以下のものなら大流量で供給できる。以下の表は現在の技術で提供できる流量を示した。
装置の設計と機材の開発、システムの構築、消火戦術の研究などに多くの課題があるが、技術的に成熟しているため、早期の実用化が可能であると思っている。
| 気体分離膜による窒素富化空気の供給量 | |||
| (空気供給圧力7atm、温度摂氏25度として) | |||